保育士というキャリアは、短距離走ではなく、時に困難な山や谷を越えていく長距離走である。最初の数年を情熱だけで乗り切ったとしても、その先、十年、二十年と、心身ともに健康で、やりがいを感じながらこの仕事を続けていくためには、これまで述べてきた体力や専門スキルに加え、さらに内面的で、自己成長に関わる資質が極めて重要となる。それは、自分自身を深く理解する「自己覚知」の能力と、常に前を向いて進み続ける「学びの姿勢」である。まず、長くこの仕事を続ける上で不可欠なのが、「自分自身の感情を客観的に見つめ、コントロールする能力」だ。保育士は、日々、子どもたちの強い感情の波に晒される。理不尽な要求に腹が立ったり、言うことを聞かないことに苛立ったり、保護者からの言葉に傷ついたりすることもあるだろう。そんな時、自分のネガティブな感情に飲み込まれてしまうと、その態度は必ず子どもたちに伝わり、保育室全体の空気を悪くしてしまう。向いている人は、自分がどのような状況でストレスを感じ、どのような感情を抱きやすいのか、自身の「心の癖」を理解している。そして、ストレスが溜まってきたと感じれば、意識的に休息をとったり、同僚に相談したり、趣味に没頭したりと、感情が爆発する前に、自分なりの方法で適切にセルフケアを行うことができる。この「切り替えの上手さ」は、自身の精神衛生を守り、バーンアウトを防ぐための、最も重要なスキルの一つと言える。また、根底にある「ポジティブさ」や「物事を楽しむ力」も、この仕事を続ける上での大きな助けとなる。子どもの突飛な発想や言動を「面白い」と感じ、日々の小さな失敗を「まあ、いいか」と笑い飛ばせるような、しなやかな心。そうした保育士の明るさは、子どもたちに安心感を与え、何事にも挑戦してみようという前向きな気持ちを育む。次に、極めて重要なのが、常に新しい知識や技術を吸収しようとする「学び続ける姿勢」である。子どもの発達に関する研究や、保育の理論、そして社会が保育に求める役割は、時代と共に絶えず変化している。かつての常識が、今では不適切とされることも少なくない。「自分はベテランだから」と過去の経験則だけに頼り、学びを止めてしまった瞬間から、保育士としての成長は止まり、その保育は古びていく。真に適性のある人は、自身の保育を常に振り返り、「もっと良い方法はないだろうか」と自問する謙虚さを持っている。そして、園内外の研修に積極的に参加したり、専門書を読んだり、後輩の斬新なアイデアに真摯に耳を傾けたりと、常に自分自身をアップデートし続ける努力を惜しまない。この探求心こそが、専門職としての保育の質を高め、マンネリを防ぎ、仕事へのモチベーションを維持する源泉となる。子どもが好きという気持ちからスタートし、心身のタフさを身につけ、専門的なスキルを磨く。そして、最終的には、自分自身を深く理解し、生涯にわたって学び続けることができる。こうした成長の螺旋を登り続けることができる人こそが、時代の変化に対応し、何年経っても子どもたちから、そして保護者から愛され、尊敬される、本物の「保育士に向いている人」なのである。